about mesothelioma

中皮腫概説

外科的治療

Ⅰ 胸膜中皮腫における外科治療の考え方

 多くの固形癌(肺がん、胃がん、大腸がんなど)では、少なくとも早期には周囲を正常細胞に囲まれており、手術の際には周囲の正常組織と一緒に切除するのが鉄則です。このため、がん細胞を1つ残らず除去することも比較的可能です。ところが、中皮腫の場合は、たとえ早期においても胸膜という薄い膜でできた袋(約1000㎠)の中を広く進展しており、周囲の組織(胸壁、横隔膜、心膜、大血管、神経、肺など)と中皮腫を隔てているのは薄い胸膜の厚みしかありません。このため、中皮腫の手術ではミクロのがん細胞レベルまで完全に除去することは難しいのです。
 このような事情から、中皮腫では手術単独治療は治療効果が不十分なため、薦められません。根治を目的とする手術は、集学的治療(手術のみでなく、化学療法や放射線治療など他の治療も併せて行う治療)の一環として行われます。一般に切除可能症例(StageⅠA~ⅢA)で、大がかりな手術にも耐えられる体調の患者さんに対して行われます。
手術は一般には上皮型中皮腫に対して行われます。治療効果の低い肉腫型には手術は推奨されません。

Ⅱ 件数と術式

 現在我が国では年間に約150件の手術が行われています。これは悪性胸膜中皮腫年間発生数の約10%にあたります。ちなみに、肺癌に対する手術は年間約45000件です。
 術式は胸膜肺全摘術(EPP)と胸膜切除/肺剥皮術(P/D)の2種類があります。胸膜肺全摘術は患側の胸膜と肺を一塊に切除する方法です。一方、胸膜切除/肺剥皮術は胸膜のみを切除し肺を温存する方法です(図1)。どちらの手術を選択するかは、施設や術者の方針と患者さんの全身状態(特に心臓と肺の機能)によって決定されます。
 いずれの手術も非常に大きな侵襲(体に対するダメージ)を伴うハイリスクな手術ですので、手術を受けるかどうかは主治医と納得のいくまで相談されたり、場合によってはセカンドオピニオンを受けたりして熟慮の上でご判断下さい。

Ⅲ 成績

 以前は中皮腫の集学的治療の成績は不良でした。2006年に日本石綿・中皮腫学会の前身組織である日本中皮腫研究機構(JMIG)により行われた国内多施設第2相臨床試験(術前化学療法3コース→胸膜肺全摘術→放射線治療)では、全適格症例に対する生存中央値が19.9ヶ月、治療関連死亡9.5%でした。
 その後、集学的治療の成績は急速に向上し、2012-13年に同じくJMIGにより行われた国内多施設第2相臨床試験(術前化学療法3コース→胸膜切除/肺剥皮術)では、全適格症例に対する生存中央値が41.4ヶ月、治療関連死亡0でした(図2)。 また、我が国で2014年から2017年に行われた悪性胸膜中皮腫手術は622件(胸膜肺全摘術279例、胸膜切除/肺剥皮術343例)でした。術後30日以内の死亡率1.1%、在院死亡率3.2%、合併症発生率40.0%でした。
 以上のように、近年では中皮腫集学的治療の安全性・効果共に大きく改善しています。

Ⅳ 集学的治療の将来

 集学的治療は様々な治療手段の総和として行われます。新規薬物治療の導入(オプジーボ、ヤーボイなど)、手術手技の改善(低侵襲手術、無開胸胸膜切除術の開発など)、新規の放射線治療(強度変調放射線治療IMRTなど)などの恩恵を得て、今後もさらに治療成績が改善する事が期待されています。

兵庫医科大学呼吸器外科 長谷川 誠紀

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