設立の経緯
Ⅰ 石綿・中皮腫研究会の設立の経緯とその後の活動
1988年 (昭和63年)から6年間続いた厚⽣省がん研修助成⾦による研究班 (北川班、成⽥班)を引継ぐ形で、⽯綿の健康被害に関⼼のある研究者の相互交流を図るとともに、⽯綿健康被害の研究の発展をめざし、1994年 (平成6年)11⽉5⽇に第1回⽯綿研究会 (古賀病院附属医学研究所.久留⽶市.世話⼈:古賀俊彦)が開催された。
研究会の役員は10数名の幹事と2名の監事よりなり、代表幹事は、北川正信 (1994年―1999年)、井内康輝 (2000年―2011年)、森永謙⼆ (2012年―2013年)、廣島健三 (2014年―2018年)が務めた。
発⾜当初は、本邦における社会の⽯綿曝露に関する認識が低く、また研究者も少ないため、欧⽶の研究から学ぶことが多かった。第4回⽯綿研究会 (⼤阪府⽴成⼈病センター)では、Dr. Hillerdal (スウェーデン、カロリンスカ研究所)、Dr. Suzuki (アメリカ、マウントサイナイ病院)、第7回⽯綿研究会 (湘南国際村)では、Dr. Gallateau-Salle (フランスの中⽪腫パネルの代表)を招き、講演をお願いした。その後、中⽪腫の診断や治療の進展がみられ、臨床医の参加も増えたため、2003年 (平成15年)から名称を⽯綿‧中⽪腫研究会に変更した。
2005年 (平成17 年)夏のいわゆるクボタショックをうけて、⽯綿環境曝露による被害者の救済制度が発⾜したが、本研究会の会員は制度の発⾜と運⽤にあたり、⼤きな役割を果した。2013年に中⽪腫におけるSMRP測定が保険適⽤の審査を受けていたが、厚⽣労働省より同検査を適切に⾏うための意⾒を求められ、2014年4⽉に「SMRP測定の提⾔」を提出し、9⽉から「可溶性メソテリン関連ペプチド」が保険適⽤となった。中⽪腫は希少がんであり、⽇常診療の参考になる書物がないため、2017年11⽉に⾦原出版に「中⽪腫瘍取扱い規約」の発⾏を提案し、⽇本中⽪腫研究機構、⽇本肺癌学会と共同で執筆し、2018年11⽉に第⼀版が発⾏された。
1999年 (平成11年)の第6回⽯綿研究会は、第1回中⽇共同⽯綿シンポジウムとして北京で開かれた。第2回中⽇共同⽯綿シンポジウムは、2009年 (平成21年)に杭州で、第3回中⽇共同⽯綿シンポジウムは、研究会解散後の2019年 (令和元年)に⻘島で開かれ、中国での現状の把握と中国の研究者への啓発に務めた。
本研究会の国内外での活動は、医学的な進歩のみならず、社会に⼤きく貢献した。
東京女子医科大学八千代医療センター 廣島 健三
回数 | 開催日 | 代表者名 | 開催地 | 会場 |
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第1回 | 1994年11月5日 | 古賀俊彦 | 久留米市 | 古賀病院附属医学研究所 |
第2回 | 1995年10月19日 | 君塚五郎 | 千葉市 | 千葉県文化会館 |
第3回 | 1996年11月2日 | 中野孝司 | 大阪市 | 新大阪三和ホール |
第4回 | 1997年10月16日 | 森永謙二 | 大阪市 | 大阪府立成人病センター |
第5回 | 1998年10月31日 | 北川正信 | 金沢市 | 金沢大学医学部十全記念館 |
第6回,第1回中日共同石綿シンポジウム | 1999年7月16~17日 | 周 安寿 北川正信 | 中華人民共和国北京市 | Beijing Rainbow Hotel (北京天橋賓館) |
第7回 | 2000年10月14日 | 三浦溥太郎 | 神奈川県三浦郡葉山町 | 生産性国際交流センター |
第8回 | 2001年11月3日 | 坂谷光則 | 堺市 | 国立療養所近畿中央病院 |
第9回 | 2002年7月20日 | 井内康輝 | 広島市 | 広島大学医学部広仁会館 |
第10回 | 2003年7月12日 | 岸本卓巳 | 岡山市 | ホテルニュー岡山 |
第11回 | 2004年11月13日 | 神山宣彦 | 東京都港区 | 労働安全衛生総合会館 |
第12回 | 2005年11月5日 | 田村猛夏 | 奈良市 | ならまちセンター |
第13回 | 2006年10月28日 | 木村清延 | 札幌市 | 北海道産業保健推進センター |
第14回 | 2007年10月13日 | 廣島健三 | 千葉市 | ほてい家 |
第15回 | 2008年10月25日 | 亀井敏昭 | 山口市 | 山口県総合保険会館 |
第2回中日共同石綿シンポジウム | 2009年4月16~19日 | 張 幸 井内康輝 | 中華人民共和国浙江省杭州市 | New Century Zhijiang Resort Hangzhou (杭州开元之江度假村) |
第16回 | 2009年10月3日 | 松井英介 | 岐阜市 | 長良川国際会議場 |
第17回 | 2010年10月16日 | 酒井文和 | 川越市 | 埼玉医科大学川越ビル |
第18回 | 2011年10月8日 | 芦澤和人 | 長崎市 | 長崎大学医学部ポンペ会館 |
第19回 | 2012年10月13日 | 大西一男 | 神戸市 | ホテル北野プラザ六甲荘 |
第20回 | 2013年9月28日 | 石川雄一 | 東京都江東区 | がん研究有明病院吉田講堂 |
第21回 | 2014年10月11日 | 宇佐美郁治 | 名古屋市 | 名古屋国際会議場 |
第22回 | 2015年10月31日 | 由佐俊和 | 川崎市 | ソリッドスクエア・ホール |
第23回 | 2016年10月15日 | 宮本顕二 | 札幌市 | 札幌市教育文化会館 |
第24回 | 2017年10月7日 | 東山聖彦 | 大阪市 | 大阪国際がんセンター |
第25回 | 2018年11月10日 | 大林千穂 | 奈良市 | 奈良まちセンター市民ホール |
第3回中日共同石綿シンポジウム | 2019年8月9~10日 | 張 幸 廣島健三 | 中華人民共和国山東省青島市 | Expo Plaza Hotel Qingdao (世圓寒軒酒店) |
Ⅱ ⽇本中⽪腫研究機構 (JMIG)設⽴の経緯と必要とされた社会的背景
中⽪腫の急増の兆候は、⽇本の死亡統計にICD-10が導⼊された平成17年 (1995年)以後、すぐに現れている。その後、欧⽶同様に急増するが、絶対数は少なく、稀な腫瘍であることに変わりはなかった。
当時は、医療従事者以外に“中⽪腫”の存在を知る⼈は少なかったが、アスベストが中⽪腫の発⽣に関連することは、多くの医療従事者はその知識を持っていた。昭和48年の特定化学物質障害予防規則で吹き付けアスベストが禁⽌されている。それはアスベスト関連職域の⽐較的⾼濃度の曝露で発⽣する職業性腫瘍と捉えていたからである。
平成17年6⽉、兵庫県尼崎市にあるアスベスト取り扱い⼯場において、多くの従業員に中⽪腫死亡があり、⼯場周辺住⺠にも、複数の中⽪腫患者が発⽣していることを株式会社クボタが公表した。これは、連⽇、報道され、⾮常に⼤きな衝撃を社会に与えた。周辺住⺠を戦慄させ、稀な腫瘍であった中⽪腫の存在が広く知られることになり、アスベスト発癌に対する社会の関⼼が急速に⾼まった。尼崎市に限らず、アスベスト⼯場は全国に点在していた。アスベストは多⽅⾯に多量に利⽤されていたため、⼯場周囲の住⺠に限らず、既に曝露を受けた可能性のある多くの国⺠の不安を⾼めた。直ちに、全国のアスベスト取り扱い⼯場の調査が開始され、中⽪腫の疫学調査、アスベスト検診、⽯綿健康被害救済にかかわる法整備などが始まった。
当時、中⽪腫は診断の難しい悪性腫瘍であり、予後は極めて不良で、有効な治療法もない状態で、国⺠に⼀層の不安が広まった。
これらを背景に、平成18年度の科学技術振興調整費‧重要課題解決型研究等の推進に、「安全‧安⼼で質の⾼い⽣活のできる国の実現;国⺠の健康障害に関する研究開発」が課題に取り上げられた (研究期間5年)。アスベスト発癌の解明、悪性胸膜中⽪腫の診断‧治療法の開発に取り組んでいた研究者が集まり、基礎研究は⼤槻剛⺒ (川崎医科⼤学衛⽣学)、豊国伸哉 (名古屋⼤学病理病態学講座分⼦病理診断学)、関⼾好孝 (愛知県がんセンター研究所分⼦腫瘍学分野)、中⽪腫登録制度の基盤整備は⻄本寛 (国⽴がんセンターがん対策情報センター統計部がん登録室)、中⽪腫の早期診断法の樹⽴と治療法の開発は、中野孝司 (兵庫医科⼤学内科学呼吸器RCU科)、福岡和也 (同 内科学呼吸器RCU科)、⻑⾕川誠紀 (同 呼吸器外科)、辻村亨 (同 病理学分⼦病理部⾨)、⽥中⽂啓 (産業医科⼤学第2外科)らが研究班を組織し、課題「アスベスト関連疾患への総括的取り組み」を申請した。本課題が採択され、直ちに研究が開始された。
富⼠レビオ社と共同開発したメソテリン関連ペプチドは臨床に供するため臨床試験を実施した。5年間に多くの研究業績をあげたが、アスベスト発癌の潜伏期間は⾮常に⻑く、中⽪腫は増加の⼀途にあり、研究の継続が必須であった。これらが平成23年の⽇本中⽪腫研究機構 (JMIG)の設⽴につながった。
最も急がなければならない重要な課題は、急増する極めて予後不良の悪性胸膜中⽪腫に対する治療法の確⽴であった。JMIGが設⽴された平成23年には、中野孝司 (前掲)が申請した「切除可能悪性胸膜中⽪腫に対する集学的治療法の確⽴に関する研究」が、厚⽣労働科学研究費補助⾦がん臨床研究事業に採択された (研究期間3年)。これは中⽪腫の治療法の開発を第⼀とするJMIGの研究主題であり、術前化学療法に続く胸膜肺全摘出術‧術後全胸郭照射の臨床試験をJMIG-01試験、胸膜切除‧肺剝⽪術にかかわる臨床試験をJMIG-02試験として実施された。⻑⾕川誠紀 (前掲)、福岡和也 (前掲)、⽥中⽂啓 (前掲)、横井⾹平 (名古屋⼤学呼吸器外科)、岡⽥守⼈ (広島⼤学呼吸器外科)、上紺屋憲彦 (兵庫医科⼤学放射線科)、渋⾕景⼦ (⼭⼝⼤学放射線腫瘍学)、福岡順也 (⻑崎⼤学病理診断科)、副島俊典 (兵庫県⽴がんセンター放射線治療科)、下川元継 (九州がんセンター 腫瘍統計学研究室)、⼭中⽵春 (国⽴がんセンター東病院⽣物統計部⾨)、⽵之内光宏 (九州がんセンター呼吸器外科)らが研究を分担した。
JMIGの臨床試験の参画施設は、愛知がんセンター中央病院、⼤阪府⽴成⼈病センター、⼤阪府⽴呼吸器アレルギー医療センター、癌研究会有明病院、獨協医科⼤学、松坂市⺠病院、⻑崎⼤学病院、川崎医科⼤学、三重中央医療センター、国⽴がんセンター中央病院、九州がんセンター、藤⽥保健衛⽣⼤学、広島⼤学病院、近畿⼤学付属病院、産業医科⼤学病院、三重⼤学病院、名古屋⼤学病院、千葉⼤学病院、呉医療センター、都⽴駒込病院、東北⼤学加齢医学研究所、⻑崎⼤学病院、⾦沢⼤学病院、静岡がんセンター、神⼾⼤学病院、兵庫医科⼤学病院 (順不同)であった。
これらの参画施設で臨床試験を⾏うとともに、治療成績が良好であった中⽪腫症例の臨床情報を共有し、また、前臨床研究の最新の状況の把握も含めて、第1回JMIGが京都で開催された。社会の関⼼も⾼く、この様⼦は毎⽇新聞、神⼾新聞などに報道された (写真)。先⾏する欧⽶の中⽪腫の臨床試験を牽引するPaul Baas教授 (オランダがんセンター)、Joseph Friedberg教授 (ペンシルバニア⼤学)、Anna Nowak教授 (⻄オーストラリア⼤学)などを招聘し、討論を繰り返した。
JMIGは年1回開催され、10回⽬を節⽬に、同じ領域の研究グループである⽯綿‧中⽪腫研究会と併合し、⽇本⽯綿‧中⽪腫学会 (JAMIG)が発⾜した。
国家公務員共済組合連合会大手前病院 中野 孝司
回数 | 開催日 | 会長 | 開催地 | 会場 |
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第1回 | 2011年6月18日 | 中野孝司 | 京都市 | 京都商工会議所 |
第2回 | 2012年1月28日 | 中野孝司 | 大阪市 | ニューオーサカホテル |
第3回 | 2012年11月17日 | 中野孝司 | 京都市 | 京都私学会館 |
第4回 | 2013年8月31日 | 中野孝司 | 京都市 | 京都私学会館 |
第5回 | 2014年9月20日 | 中野孝司 | 京都市 | 京都私学会館 |
第6回 | 2015年11月14日 | 田中文啓 | 北九州市 | 北九州国際会議場 |
第7回 | 2016年9月3日 | 横井香平 | 名古屋市 | JPタワー名古屋ホール&カンファレンス |
第8回 | 2017年9月2日 | 諸星隆夫 | 横浜市 | ワークピア横浜 |
第9回 | 2018年9月8日 | 岡部和倫 | 山口市 | YIC Studio |