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中皮腫概説

胸膜中皮腫について

Ⅰ 胸膜とは(動画1、2)

 胸膜とは肺と胸壁の表面を覆っている袋状の薄い膜のことです。胸壁(肋骨、肋間筋)を覆っている胸膜を壁側胸膜(へきそくきょうまく)、肺の表面を覆っている胸膜を臓側胸膜(ぞうそくきょうまく)と呼びますが、一続きの膜です。その役割は、呼吸をする時に肺と胸壁が摩擦なくなめらかに動けるようにすることです。胸膜の表面に一層の中皮細胞がありますが、肉眼で認めることはできません。

 動画1の説明:正常の壁側胸膜です。
 動画2の説明:胸腔鏡検査です。動画1で見えた壁側胸膜に直径約1cmの穴を空け、スコープを挿入して胸腔(胸膜の内側)を観察しています。下の薄いピンク色の柔らかな組織が肺で特に異常は認められません。上が胸壁です。茶色の組織は肋間筋で黄色の組織は脂肪組織です。画像では直接見えませんが胸壁は肋骨によって支えられています。
 検査のために肺から空気を抜いて観察しているため、広く空間が開いていますが、通常、肺と胸壁はほぼ密着していて、ごくわずかの量の胸水があり潤滑油の役目を果たします。検査後は自然に肺が広がります。

Ⅱ 胸膜中皮腫について(図1

 中皮腫は胸膜、腹膜、心膜、精巣鞘膜の中皮細胞から発生する悪性腫瘍です。そのうち胸膜に発生する悪性胸膜中皮腫が約80%を占めます。
 中皮腫の発生にはアスベスト(石綿)への曝露が深く関わっています。アスベスト曝露から20-40年の潜伏期間を経て発症するとされ、2030年頃にピーク(新規の罹患者数が毎年2,500~3,000人)となると予想されています。
 多くの胸膜中皮腫は壁側胸膜の顆粒状・小結節状腫瘍で初発し、胸水が貯留します。その後、胸膜面に沿って広く進展し、臓側胸膜や葉間胸膜(右肺は3葉、左肺は2葉にわかれていますが、その間の表面を葉間胸膜と呼びます)を含む全ての胸膜面を埋め尽くすように広がります。進行すると鎧状に厚く片肺全体を取り囲むようになり、さらに、肺実質、胸壁、横隔膜や縦隔臓器(心嚢、食道、大血管など)へ直接浸潤したり、リンパ節に転移したりします。
 初期の悪性胸膜中皮腫は無症状です。悪性中皮腫に特有の症状はなく、進行した際には他の肺疾患と似た症状を示すことが多いです。例えば、胸水が大量に貯留するようになると胸部圧迫感、呼吸困難感を自覚するようになります。腫瘍が胸壁へ浸潤すると胸背部痛などの症状が出現することがあります。さらに進行すると体重減少、全身倦怠感、発熱などの症状が現れてきます。

 図1の説明:悪性胸膜中皮腫が発症、進展する様子を4枚の図で示しています。発生(2枚目)の段階ではほとんど自覚症状がないと考えられます。臨床的に診断される状態まで腫瘍が大きくなると、一般的な経過としては、その後の進展や周囲組織への浸潤が非常に早く進むことが多いです。

2024年9月6日
宝塚市立病院呼吸器外科  長谷川 誠紀

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